紅宝石少年

ゆきやの読んだ本や行った場所を紹介する気ままブログ。ブログタイトル「紅宝石少年」は、大すきな漫画カストラチュラから。

鳩山郁子「緑郎丸」感想

鳩山郁子さんの作品に飢えていたころに、タイムリーに出た単行本未収録の「緑郎丸」。おもわずkindleデビューまで果たしてしまいました。 というわけで、私にkindleという新しい世界の扉を開いた『緑郎丸/鳩山郁子/太田出版kindleのみ)』の感想を。

【紹介】 気高く美しき少年世界の名手・鳩山郁子、幻の単行本未収録中編! 薬草、硝子ペン、少年剣士。そして「お寺の子」と噂された級友との、一瞬にして一生分の交錯。 本作は1994年『ガロ』(青林堂)掲載作を太田出版より電子書籍化したものです。(49頁) (amazonサイトより)

【評価】 ★★★★☆

【感想】 やはり鳩山郁子はいい。 話も余韻があるし、絵も深く見れば見るほどに新たな発見がある。 表紙の伊皿子が身に着けている着物の柄からして美しい。

少年たちは思わず憧れる植物標本の授業を受け、授業中に隠れて読むのは『少年界』。時代は明治か大正か。

小道具たちの美しい描写は鳩山作品独特のもの。

小説の行間に思いをはせるように、少年の表情、所作、細くしなやかな手や足の動き、精密に描かれる背景を何度も何度も眺めて楽しむ事をおすすめします。

ゆきしろばらべになどに代表されるような現在の表情豊かな少年たちの表情ももちろん素敵なのですが、緑郎丸当時の一見無機質な表情の、少年たちが少し眉をひそめるだけで、目じりを吊り上げるだけでにおい立つような感情が生まれるのも素敵です。

最初は伊皿子と魚地に着目して読む。次は先生と伊皿子。伊皿子と柿崎。柿崎と魚地。物語全体。そうやって見方を変えるたびに新たな気付きをさせてくれる作品です。万華鏡をのぞきこんで様々な模様を見るように作品をめでたくなります。

そして多分、読み手が変われば読み手ごとの緑郎丸が生まれると思います。 読者にこうかもしれないああかもしれないといった余韻をくれるいい作品です。鳩山先生の作品はこの余韻が素晴らしい。思わず自分だけの緑郎丸その後の話を考えてしまいたくなるほど魅力にあふれています。

多分、寺の預かり子の伊皿子と東京から転校してきた(であろう)魚地は、ともにこの地では異邦人で、それゆえに反発しながらもどこか惹かれあうのでは、などという妄想も抱きました。 星は5つつけたいところですが、鳩山先生の作品は紙媒体で持っていたい派なので、星4つで。いつか、本に収録されたらいいなぁ。